製造副産物を新たな資源へ:中小製造業におけるスラッジ・研磨かすの有効利用事例
中小製造業の現場では、製品を製造する過程で様々な「副産物」が発生します。その中でも、金属加工で生じるスラッジや研磨工程で発生する研磨かすは、量が多く、処理にコストがかかる一方で、有効活用が難しいとされる典型的な廃棄物の一つです。しかし、近年、これらの製造副産物を単なる廃棄物としてではなく、価値ある「資源」として捉え、有効活用する取り組みが進められています。本記事では、中小製造業がどのようにスラッジや研磨かすの資源循環に取り組み、どのような成果を上げているのか、具体的な事例に基づいてご紹介します。
導入の背景:製造副産物が抱える課題
多くの製造現場では、切削や研削といった加工プロセスにおいて、クーラント液と金属粉末、研磨材などが混ざり合ったスラッジや研磨かすが発生します。これらは水分を含み、油分や微細な金属粒子が含まれているため、産業廃棄物として処理する必要があり、高額な処理費用が発生します。また、これらの副産物は現場での保管場所を圧迫し、管理の手間もかかるため、製造部門にとっては負担となっていました。さらに、環境規制の強化に伴い、排出量の削減や適正処理の重要性が増しています。
これらの課題に対し、サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れ、製造副産物を資源として捉え直すことで、コスト削減、環境負荷低減、そして新たな価値創造の可能性が見出されます。
具体的な取り組み事例:スラッジ・研磨かすの資源化
ある中小の金属加工メーカーでは、これまで年間数百万円をかけていたスラッジや研磨かすの処理費用削減を目指し、資源循環の取り組みを開始しました。
同社で発生する主な製造副産物は、鉄鋼やアルミニウム、銅などの金属加工で生じるクーラント混じりのスラッジと、部品の研磨で出る研磨かすでした。これらの副産物には、処理費用がかかる一方で、まだ利用可能な金属成分や研磨材が含まれていることに着目しました。
具体的な取り組みは以下の通りです。
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副産物の発生源管理と分別徹底:
- 金属の種類(鉄系、非鉄系など)ごとに発生源を明確にし、スラッジや研磨かすの分別を徹底しました。
- 特定の加工ラインからは、有価金属含有率が高いスラッジが発生することが分かり、これを優先的に資源化の対象としました。
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スラッジの固液分離と乾燥:
- クーラント液と固形物を効率的に分離するため、特定の湿式スラッジ処理装置(遠心分離機やフィルタープレスなど、製品名ではなく機能で説明)を導入しました。これにより、クーラント液は浄化して再利用し、固形分のスラッジを回収できるようにしました。
- 回収したスラッジは、その後の処理を容易にするために乾燥工程を経るようにしました。シンプルな乾燥機や、天日乾燥スペースの活用など、設備の規模や予算に応じた方法が検討されました。
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資源化ルートの確立:
- 分離・乾燥させたスラッジや研磨かすに含まれる金属成分やその他の成分を分析しました。
- 複数のリサイクル業者や金属精錬業者に接触し、成分分析結果に基づいて有価買取が可能か、あるいはセメント原料や建材の骨材など、他の用途での利用が可能かを検討しました。
- 最終的に、特定の金属スラッジについては有価で買い取ってもらえるリサイクル業者を見つけ、研磨かすの一部は建材メーカーで利用してもらえるルートを確立しました。
これらの取り組みにより、これまで全て廃棄していた製造副産物の一部が、売却可能な有価物、または処理費用が低減される資源へと変わりました。
導入プロセスでの課題と解決策
この取り組みを進める上で、いくつかの課題に直面しました。
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課題1:初期投資への不安: スラッジ処理装置や分別設備の導入には一定の初期投資が必要でした。
- 解決策: 小規模な設備から導入し、効果を確認しながら段階的に投資を進める方法を選択しました。また、自治体の環境関連補助金制度を活用することで、初期負担を軽減しました。投資回収期間のシミュレーションを行い、経営層への説明を重ねることで理解を得ました。
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課題2:現場での運用負荷: 副産物の分別や装置のメンテナンスなど、現場の作業負担が増えることへの懸念がありました。
- 解決策: 新しい分別ルールや装置の操作方法に関する丁寧な作業手順書を作成し、全従業員向けの研修を実施しました。また、分別や管理を効率化するための簡単なツール(専用コンテナの色分けなど)を導入し、現場の意見を取り入れながら運用方法を改善しました。
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課題3:再利用先の開拓: 適切なリサイクル先や利用先を見つけるのに時間がかかりました。
- 解決策: 既存の廃棄物処理業者だけでなく、サーキュラーエコノミー関連の展示会に参加したり、インターネットで情報収集したりと、積極的に新たなルートを探しました。複数の候補先と交渉し、サンプルを提供して評価してもらうなど、根気強く取り組みました。商工会議所などの支援機関も活用しました。
導入効果(成果)
これらの取り組みの結果、同社は以下の成果を達成しました。
- 廃棄物処理コストの大幅削減: 年間数百万円かかっていたスラッジ・研磨かすの処理費用を、約半減させることに成功しました。
- 新たな収入源の創出: 有価で売却できるスラッジが発生し、これまでコストだったものが収入へと転換しました。
- 環境負荷の低減: 廃棄物排出量が削減され、最終処分場への負荷軽減に貢献しました。これは、顧客や地域社会からの評価向上にもつながりました。
- 従業員の意識向上: 廃棄物を資源として捉え、分別や効率的な処理に取り組む中で、従業員一人ひとりの環境意識やコスト意識が向上しました。現場での改善提案も活発に行われるようになりました。
- 法規制対応の強化: 将来的な法規制強化への対応力を高め、持続可能な事業運営の基盤を強化しました。
今後の展望と学ぶべき点
同社は今後、他の製造副産物(切削油、廃プラスチックなど)への資源循環の取り組みを拡大していくことを検討しています。また、地域内の他の中小企業と連携し、互いの副産物を融通し合うといった、より広範なサーキュラーエコノミーの実現可能性も模索しています。
この事例から学ぶべき点はいくつかあります。まず、「見過ごされている廃棄物に着目することの重要性」です。日常的に発生している製造副産物の中にも、実は資源として活用できるものがあるという視点を持つことが第一歩となります。次に、「スモールスタートで始めること」です。大規模な投資を一度に行うのではなく、まずは特定の副産物や工程を対象に試験的に取り組み、効果を確認しながら横展開していく方法が、中小企業にとっては現実的です。そして、「外部の知見やリソースを積極的に活用すること」です。リサイクル業者、コンサルタント、支援機関など、自社だけでは得られないノウハウやネットワークを活用することが成功の鍵となります。
まとめ
中小製造業におけるスラッジや研磨かすといった製造副産物の有効利用は、廃棄物処理コストの削減、環境負荷の低減、そして新たな収入源や企業イメージ向上につながる、非常に実践的なサーキュラーエコノミーの取り組みです。初期投資や現場での運用負荷といった課題はありますが、計画的なアプローチと外部連携により、これらの課題を克服し、着実な成果を上げることが可能です。自社の製造プロセスで発生する副産物を改めて見直し、資源循環の可能性を探ることは、持続可能なものづくりを実現するための一歩となるでしょう。