地域と共に創る資源循環:中小製造業のサーキュラーエコノミー連携事例
地域・協力企業との連携が中小製造業の資源循環を加速させる
多くの製造現場では、製造工程で発生する端材、副産物、使用済み資材などが廃棄物として排出されています。これらの廃棄物は処理コストを発生させるだけでなく、貴重な資源の損失でもあります。サーキュラーエコノミーへの移行が求められる中、特にリソースに制約のある中小製造業において、自社単独での資源循環システム構築は大きな課題となりがちです。
しかし、この課題を乗り越える有効な手段の一つが、地域内の企業や異業種、リサイクル事業者、自治体などとの「連携」です。他社が排出するものを自社が原料として利用したり、自社から出る副産物を必要とする他社に供給したりすることで、地域全体での資源循環の輪を形成することが可能になります。これは、廃棄物削減、コスト削減だけでなく、新たなビジネス機会や地域貢献にも繋がり得ます。
本記事では、中小製造業が地域や協力企業と連携してサーキュラーエコノミーを実践した具体的な事例を通して、その導入プロセス、課題克服、そして得られた効果についてご紹介します。
具体的な連携による資源循環の取り組み事例
ここでは、特定の架空の事例を通して、連携による資源循環の具体的な流れを見てみましょう。
事例:金属加工業A社とプラスチック成形業B社、リサイクル業者C社による連携
-
連携の背景:
- A社(金属加工業):製品加工時に特定の高機能プラスチックを治具として使用。治具は摩耗や破損により定期的に交換が必要で、使用済みのものは産業廃棄物として処理しており、コストと廃棄量増加に悩んでいました。
- B社(プラスチック成形業):成形不良やテストショットなどで発生する同種の高機能プラスチック端材が発生。自社での再利用は難しく、廃棄していました。
- C社(リサイクル業者):特定のプラスチックの高度な破砕・選別・再生技術を有していました。
- 地域商工会や産業振興機関が、異業種交流会を通じてA社、B社、C社のニーズと技術シーズを結び付けました。
-
具体的な取り組み内容:
- 資源の特定と評価: A社とB社で使用済み・不要となる特定の高機能プラスチックが、C社の再生技術で再資源化可能か、また再生された資源をA社やB社、または他の地域企業が利用可能か、連携主体間で協議・評価を実施。廃棄物として処理されていたものが、潜在的な資源(有価物)として認識されました。
- 収集・運搬スキームの構築: A社とB社からC社へ使用済みプラスチックを集約するための効率的な収集・運搬ルートと頻度を計画。特定の置き場を設ける、定期的な回収便を手配するなど、物流コストを抑える工夫を行いました。
- 再生プロセスの確立と品質管理: C社は回収したプラスチックを破砕、洗浄、異物除去、ペレット化するプロセスを確立。再生ペレットの品質が、A社の治具製造やB社の別製品成形、あるいは他の連携企業の用途に適しているかを、サンプル提供やトライアルを通じて確認し、品質基準を策定しました。品質にばらつきが出ないよう、排出元での分別徹底も併せて実施しました。
- 再生資源の利用: 再生されたプラスチックペレットは、A社が新たな治具の一部原料として利用、B社が自社製品の一部に利用、また地域内の別の企業D社(樹脂製品メーカー)が成形材として利用する、といった形で循環する仕組みを構築しました。
導入プロセスでの課題と解決策
連携による資源循環システムの構築は、単に技術的な側面だけでなく、関係者間の調整や新たな仕組みづくりが必要です。この事例において直面した主な課題と、その解決策は以下の通りです。
-
課題1:連携先の探索と信頼構築
- 具体的な状況: 自社から出る廃棄物に関心を持つ企業や、自社が必要とする再生資源を供給できる企業をどのように見つけるか、またその企業とどのように信頼関係を築くか不明でした。
- 解決策: 地域商工会、産業クラスター組織、自治体の産業振興部門が開催する異業種交流会やビジネスマッチングイベントに積極的に参加。自社の排出物やニーズに関する情報を開示し、連携の可能性を探りました。また、小規模なトライアルから開始し、互いの技術力や信頼性を確認しながら段階的に連携を深めました。
-
課題2:排出物の品質のばらつき
- 具体的な状況: A社やB社から排出される使用済みプラスチックに、他の種類のプラスチックや異物(金属片、油など)が混入する可能性があり、再生ペレットの品質安定性が懸念されました。
- 解決策: 排出元(A社、B社)とリサイクル業者(C社)が共同で、排出物の受け入れ基準と分別ルールを明確に策定。現場の従業員向けに分別方法に関する勉強会やマニュアルを作成し、ルールの遵守を徹底しました。また、C社での受け入れ時検査を厳格に行い、品質フィードバックを排出元に迅速に行う体制を構築しました。
-
課題3:採算性(コストと価値のバランス)
- 具体的な状況: 廃棄物処理コストは削減できる一方で、収集・運搬コスト、リサイクル費用、再生資源の購入費用などが新たなコストとして発生します。全体として経済的なメリットがあるか、見通しが立ちにくい状況でした。
- 解決策: 廃棄物処理コストの削減額と、新たなコスト(収集運搬、リサイクル費用、再生資源購入)を詳細に比較検討。当初は、廃棄物処理コストと同等かやや割高になる可能性も考慮しつつ、環境貢献や企業イメージ向上といった定性的なメリットも加味して意思決定を行いました。連携が軌道に乗った後は、収集運搬ルートの最適化やリサイクルプロセスの効率化を進め、コスト削減効果を高めました。再生資源の品質向上により、より高付加価値な用途での販売先(D社など)を見つけることも採算性向上に繋がりました。
-
課題4:法規制への対応
- 具体的な状況: 廃棄物が資源として取引される際の法的な位置づけ(廃棄物処理法上の扱いなど)や、再生資源の品質に関する規制など、遵守すべき法令が不明瞭な点がありました。
- 解決策: 自治体の産業廃棄物担当部署や、環境関連の専門家(コンサルタント、弁護士)に相談し、連携スキームが法的に問題ないか確認しました。廃棄物ではなく有価物として取引するための条件などを明確にしました。
導入効果(成果)
この地域連携による資源循環の取り組みは、関係する中小製造業に以下のような効果をもたらしました。
-
定量的な効果:
- 廃棄物排出量の削減: A社、B社からの該当プラスチック廃棄物の排出量が年間〇〇トン削減されました。
- 廃棄物処理コストの削減: 削減された廃棄物量に応じて、年間〇〇円の処理委託費が削減されました。
- 原料コストの削減: A社、B社、D社は、新規プラスチック原料の一部を再生ペレットに置き換えることで、購入コストを削減できました。
- 新たな収益機会: C社はリサイクル事業の拡大、A社・B社は再生資源の供給による収入を得る機会が生まれました。
-
定性的な効果:
- 企業イメージ向上: 環境配慮型企業としてのイメージが向上し、顧客や地域からの信頼を得やすくなりました。
- サプライチェーンの強靭化: 原料調達先が多様化し、特定原料の価格変動リスクや供給途絶リスクに対する耐性が向上しました。
- 従業員の意識改革: 従業員が自身の業務が資源循環に繋がっていることを実感し、分別意識の向上や改善提案に繋がりました。
- 地域内連携の強化: 異なる企業間での協力関係が構築され、今後の新たな連携や共同事業の可能性が生まれました。
今後の展望と学ぶべき点
この事例は、中小製造業が自社単独では難しかった資源循環を、外部との連携によって実現可能であることを示しています。今後の展望としては、この成功事例を基に、対象となる資源の種類を増やしたり、連携する企業の輪を広げたりすることで、より大規模な地域資源循環システムを構築していくことが考えられます。
他の多くの中小製造業が同様の連携を進める上で学ぶべき点は以下の通りです。
- 自社の排出物・副産物・使用済み製品を「資源候補」として捉え直すこと。
- 地域内にどのような「資源ニーズ」や「再生技術」があるかを積極的に情報収集すること。
- 異業種交流会や商工会など、外部との接点を活用すること。
- 最初から完璧を目指さず、小規模なトライアルから開始し、課題を一つずつ解決していくこと。
- 連携先との信頼関係構築と、継続的なコミュニケーションが最も重要であること。
- 必要に応じて、自治体や専門機関の支援・アドバイスを活用すること。
まとめ
中小製造業におけるサーキュラーエコノミーの推進は、自社のコスト削減や廃棄物削減に貢献するだけでなく、地域全体での持続可能な経済システム構築の一翼を担う重要な取り組みです。特に、地域や協力企業との連携は、中小企業が持つリソースの限界を超え、新たな価値創造と環境負荷低減を両立させるための強力なアプローチとなり得ます。
本記事でご紹介した事例のように、自社だけでなく、地域という広がりの中で資源の可能性を探求し、連携によって課題を乗り越えることが、サーキュラーエコノミー実現への現実的な一歩となるのではないでしょうか。ぜひ、貴社の排出物や副産物について、「これはどこかで活かせないか?」という視点で、地域との連携の可能性を模索していただければ幸いです。