中小製造業サーキュラーエコノミー導入事例集

複合材製品の回収・分解・再資源化:中小製造業のクローズドループリサイクル実践事例

Tags: 複合材, リサイクル, クローズドループ, 廃棄物削減, コスト削減, 製造プロセス, 事例

はじめに:複合材製品の廃棄・リサイクルにおける課題

近年、様々な産業分野で軽量化や高強度化などを目的に、繊維強化プラスチック(FRP)をはじめとする複合材が広く利用されています。しかし、複数の異なる素材が組み合わされている複合材製品は、使用後に単一素材のように容易にリサイクルすることが難しいという課題があります。適切な処理方法が確立されていない場合、多くが焼却や埋め立てといった形で廃棄されており、環境負荷の増加や廃棄コストの上昇を招いています。

中小製造業においても、自社製品に複合材を使用していたり、顧客から使用済み製品の回収・リサイクルに関する要求が高まったりする中で、この問題への対応が喫緊の課題となっています。抽象的なサーキュラーエコノミーの概念だけでは、具体的な現場での取り組みに繋がりにくいと感じている方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、中小製造業が複合材製品のクローズドループリサイクル(回収した使用済み製品を分解・再資源化し、再び自社製品の原材料として利用する仕組み)にどのように取り組むことができるのか、具体的な事例をもとにご紹介いたします。コスト削減、廃棄物削減、そして新たな価値創造に繋がる実践的なヒントを提供できれば幸いです。

事例に見る具体的な取り組み:複合材製カバーのクローズドループリサイクル

ここでは、産業機械向けのFRP製カバーを製造している従業員数約50名の中小製造業、A社の事例を基に解説を進めます。A社はこれまで、製品の買い替え時に発生する旧型カバーについて、顧客側での廃棄に委ねるか、回収しても産業廃棄物として処理することしかできていませんでした。しかし、廃棄コストの上昇と環境意識の高まりを受け、自社での回収・リサイクル、特にクローズドループ化を目指すことになりました。

取り組みのステップ

  1. 対象製品の選定と設計の見直し: まず、クローズドループリサイクルが技術的・経済的に実現しやすい特定の製品モデルを選定しました。また、将来的な解体・分別を容易にするため、新製品の設計段階から異なる素材の接合方法をシンプルにするなどの「リサイクルのための設計(Design for Recycling)」の視点を取り入れ始めました。
  2. 使用済み製品の回収スキーム構築: 顧客に対して、旧型カバーの買い替え時に回収サービスを提供する仕組みを構築しました。物流コストを抑えるため、新しい製品の配送ルートを活用して使用済み品を回収する抱き合わせ輸送を導入しました。
  3. 解体・分別のプロセス確立: 回収したFRP製カバーは、まず手作業による解体を行いました。ボルトやビスなどの金属部品、ヒンジなどの樹脂部品、FRP本体といった主要部分に分けます。特にFRP部分は、母材樹脂と強化繊維(ガラス繊維など)が一体化しているため、完全に分離することは困難です。A社では、まず可能な限り金属や他の樹脂を取り除く前処理に注力しました。
  4. リサイクル技術の選定と導入(外部連携): FFP本体のリサイクルは、中小単独での設備投資や技術開発が難しい場合が多いです。A社は複数のリサイクル技術を持つ外部専門業者を検討した結果、自社製品に使用されているFRPの種類に適した物理的粉砕・分級技術を持つB社と連携することを選択しました。A社で前処理されたFRP本体をB社に送り、微細な粉末や繊維状に加工してもらいます。
  5. 再資源化材の品質評価と利用: B社から供給されるリサイクルFRP材(粉砕品、繊維)を、A社が新たなカバー製造の際に未使用の原材料の一部に代替して使用する試みを開始しました。初期段階では、物性の低下を懸念し、リサイクル材の混合比率を低く設定し、試作品での強度試験や耐久性評価を繰り返しました。品質が安定していることを確認できた段階で、徐々に混合比率を上げていきました。
  6. トレーサビリティの管理: 回収した製品の個体識別、解体・分別状況、外部委託先での処理、そしてリサイクル材として再利用されるまでのプロセスを記録・管理する仕組みを導入しました。これにより、資源循環の経路を明確にし、品質管理にも役立てています。

導入プロセスにおける課題と解決策

課題1:回収・物流コストの負担

課題2:複合材の解体・分別の難しさ

課題3:リサイクル材の品質安定性と用途開発

課題4:採算性の確保

導入効果(成果)

A社の複合材製品クローズドループリサイクル導入により、以下の効果が得られました。

今後の展望と学ぶべき点

A社では今後、クローズドループリサイクルの対象製品を拡大することや、解体・分別の自動化をさらに進めることを検討しています。また、自社でリサイクル材として再利用できない複合材端材や他の種類の廃棄物についても、異業種連携や地域内での連携を通じて、新たな資源循環の道を模索していく方針です。

本事例から学ぶべき点はいくつかあります。まず、複合材製品のリサイクルは難易度が高いものの、外部の専門技術やノウハウを活用することで、中小製造業でも実現可能であるということです。次に、設計段階からの配慮、回収スキームの工夫、そして現場での地道な分別・解体作業が成功の鍵となることです。最後に、クローズドループリサイクルは、単なるコスト削減や環境対策に留まらず、企業価値を高め、新たなビジネス機会を創出する可能性を秘めているということです。

まとめ

複合材製品のクローズドループリサイクルは、中小製造業にとって技術的、経済的なハードルが存在します。しかし、本事例のように、対象を絞り、既存の物流網を活用し、外部のリサイクル業者と連携しながら段階的に進めることで、実現への道が開かれます。廃棄物処理コストの削減や原材料費の低減といった直接的なメリットに加え、企業イメージの向上や新たなビジネスチャンスの獲得といった長期的なリターンも期待できます。

貴社の製品に複合材が使用されている場合、まずは使用済み製品が現在どのように処理されているかを確認し、回収・解体・リサイクルがどこまで可能か、外部連携先となりうる企業は存在するかといった視点から、サーキュラーエコノミー導入の可能性を探ってみる価値は大きいと言えるでしょう。第一歩を踏み出すことが、持続可能な製造業への転換に繋がります。