製造現場の日常消耗品を資源へ:中小製造業のコスト削減・環境対策事例
製造現場の日常消耗品から始めるサーキュラーエコノミー
中小製造業の現場では、製品の製造に直接関わる材料だけでなく、日常的に使用される様々な消耗品が発生します。例えば、軍手、ウエス、研磨パッド、フィルター、清掃用品などが挙げられます。これらの消耗品は定期的に交換・廃棄されるため、積み重なると無視できないコストや廃棄物処理の負担となります。
サーキュラーエコノミーは、製品や材料を繰り返し利用し、廃棄物の発生を抑制する経済システムです。この考え方は、大規模な設備投資や抜本的なプロセス変更だけでなく、こうした日常的な消耗品の取り扱いにおいても適用できます。中小製造業にとって、身近な消耗品の循環利用は、比較的取り組みやすいサーキュラーエコノミー導入の第一歩となり得ます。コスト削減と環境負荷低減を同時に実現するための、具体的な取り組み事例をご紹介します。
具体的な取り組み事例:現場消耗品の循環利用
いくつかの異なる消耗品を対象とした、中小製造業での具体的な循環利用の事例を見てみましょう。
事例1:洗浄・再利用可能な軍手・ウエスの導入
多くの製造現場で日常的に使用される軍手やウエスは、汚れると使い捨てられることが一般的です。ある中小部品メーカーでは、この使い捨て習慣を見直し、洗浄・再利用が可能な種類の軍手とウエスを選定しました。
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取り組み内容:
- 従来の使い捨て品から、耐久性があり洗浄に適した素材(例:特定の合成繊維や厚手の綿など)の製品に変更。
- 社内に小型の工業用洗濯機と乾燥機を設置、または専門のクリーニング業者と契約。
- 使用済み軍手・ウエスの回収ボックスを各工程に設置し、定期的に回収・洗浄・再利用するフローを構築。
- 洗浄後の品質基準(油汚れの除去度合い、破れがないかなど)を定め、基準を満たさないものは適切に処分する。
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成果:
- 軍手・ウエスの購入頻度が約40%削減され、年間〇〇万円の直接的なコスト削減を実現しました。
- 使用済み軍手・ウエスの廃棄量が減少し、産業廃棄物処理費が約30%削減されました。
- 従業員の間で「使い捨て」から「繰り返し使う」という意識が醸成され、他の消耗品や資源の利用方法についても見直すきっかけとなりました。
事例2:使用済みフィルターの洗浄・再生サービス活用
切削油や洗浄液のろ過に使用されるフィルターは、目詰まりすると交換が必要になります。特に高価なフィルターの場合、その交換コストは無視できません。ある金属加工業では、使用済みフィルターの洗浄・再生サービスを活用する取り組みを開始しました。
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取り組み内容:
- 使用済みのフィルター(例:焼結金属フィルター、特定のカートリッジフィルターなど)を、専門の洗浄・再生サービスを提供する業者に送付。
- 業者が特殊な洗浄技術(例:超音波洗浄、熱洗浄、化学洗浄など)を用いてフィルターの目詰まりを除去し、再生。
- 再生されたフィルターを回収し、再度現場で使用。
- 再生可能なフィルターの種類や、何回程度再生が可能かを事前に業者と確認。
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成果:
- 新品フィルターの購入費用が約50%削減されました。
- 使用済みフィルターの廃棄量が大幅に減少し、環境負荷を低減できました。
- 洗浄・再生サービスを利用することで、自社での複雑な洗浄設備投資が不要となり、初期導入のハードルが低くなりました。
事例3:研磨パッド・研磨ベルトの再利用促進
製品の表面仕上げに使用される研磨パッドや研磨ベルトも、摩耗すると交換が必要です。ある研磨加工専門の中小企業では、これらの消耗品を最後まで使い切るための工夫と、一部の再利用に取り組みました。
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取り組み内容:
- 研磨パッドやベルトの適切な保管方法を徹底し、劣化を防ぐ。
- パッドの摩耗状況を定期的にチェックし、全面が使用できなくなるまでローテーションして使用する運用ルールを策定。
- 特定の種類の研磨パッドについて、表面の目詰まりを手作業や簡単なツールで除去し、寿命を延ばす試みを実施。
- 協力できる再生業者がないか情報収集を行う。
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成果:
- 研磨消耗品の交換頻度が約15%削減され、購入費用が抑制されました。
- 現場の従業員が消耗品を大切に使う意識が高まり、無駄遣いが減少しました。
- 完全な循環には至らないまでも、寿命を延ばすことで廃棄量を削減する効果が得られました。
導入プロセスでの課題と解決策
消耗品の循環利用は比較的取り組みやすい反面、いくつかの課題も存在します。
- 課題1:品質の確保
- 洗浄・再生した軍手やウエスが十分に清潔でない、あるいは強度が低下している。
- 再生フィルターが新品と同等のろ過性能を発揮しない。
- 再生した消耗品が、製品の品質に悪影響を与える懸念。
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解決策1: 再利用品の品質基準を明確に設定し、使用前に検査を実施する体制を構築します。必要に応じて、再生業者と密に連携し、再生技術や管理方法について協議します。品質基準を満たさないものは使用しない徹底が重要です。
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課題2:現場の協力と衛生面
- 使用済み消耗品の分別回収が徹底されない。
- 汚れた消耗品を取り扱うことへの抵抗感や衛生面の懸念。
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解決策2: 従業員への丁寧な説明と教育を実施し、サーキュラーエコノミーの目的や衛生管理の重要性を共有します。分別回収ボックスの設置場所を工夫し、分かりやすい表示を行います。洗浄設備の清潔保持や、作業者の手洗い・手袋着用など、衛生管理を徹底します。
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課題3:コストと効果の見極め
- 洗浄設備やサービス利用費、回収の手間などのコストが、新品購入費削減分に見合わない可能性がある。
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解決策3: 事前にパイロット導入や小規模での試行を実施し、具体的なコスト(設備費、運用費、人件費、サービス費など)と効果(購入費削減額、廃棄物処理費削減額など)を正確に把握します。複数の業者から見積もりを取り、費用対効果を比較検討することが重要です。助成金や補助金の活用も検討できます。
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課題4:適切なパートナー探し
- 自社の消耗品の種類に対応した洗浄・再生サービスや回収業者が見つかりにくい。
- 解決策4: インターネット検索だけでなく、同業他社や業界団体からの情報収集、展示会への参加などを通じて、情報網を広げます。地方自治体や環境関連の支援機関に相談することも有効です。
導入効果と今後の展望
消耗品の循環利用は、中小製造業にとってコスト削減と環境負荷低減という直接的な効果をもたらすだけでなく、従業員の環境意識向上や、企業イメージの向上にも繋がります。これは、将来的な顧客や取引先からの環境配慮への要求に応える上でも、重要な一歩となります。
まずは使用量の多い特定の消耗品から取り組みを開始し、成功体験を積むことが推奨されます。その後、対象を広げたり、より高度な再生技術の導入や、サプライヤーと連携した製品設計の段階からの見直しを検討するなど、段階的に取り組みを拡大していくことが可能です。
まとめ
中小製造業における消耗品の循環利用は、サーキュラーエコノミーを現場で実践するための現実的なアプローチです。軍手やウエスといった日常的な消耗品から、フィルターや研磨パッドのような特定の工程で使用される消耗品まで、対象となるものは多岐にわたります。
初期の課題克服には、現場の協力、品質管理体制の構築、そして適切なパートナー探しが鍵となります。しかし、これらの課題を乗り越えれば、コスト削減、廃棄物削減といった具体的な成果に加え、企業の持続可能性を高める重要な取り組みとなります。ぜひ、自社の製造現場で発生する消耗品に着目し、循環利用の可能性について検討してみてはいかがでしょうか。