修理・メンテナンスは新たな価値創造へ:中小製造業の製品ライフサイクルにおけるサーキュラーエコノミー実践
はじめに:製品の長寿命化がもたらす新たな可能性
製造業におけるサーキュラーエコノミーは、単に廃棄物を減らすことだけではありません。製品そのものの価値を最大限に引き出し、長く活用することも重要な柱となります。特に中小製造業においては、高度なリサイクルシステム構築は難しい場合もありますが、自社製品の修理やメンテナンスを強化することで、製品の寿命を延ばし、結果として資源の消費を抑制する取り組みが可能です。
これは、環境負荷の低減だけでなく、顧客満足度の向上、新たな収益源の確保、さらには企業イメージの向上にも繋がります。本稿では、ある中小製造業がどのように製品の修理・メンテナンスサービスを強化し、サーキュラーエコノミーを実践したのか、その具体的な事例をご紹介いたします。
事例企業の概要と導入の背景
今回ご紹介する事例は、産業用機械部品を製造・販売する従業員数約80名の中小製造業です。以前より製品のアフターサービスとして修理対応は行っていましたが、あくまで顧客からの要望があった際の個別対応であり、収益部門としては位置づけられていませんでした。修理の際は新品部品への交換が中心で、使用済み部品の扱いは基本的に廃棄されていました。
しかし、近年、顧客からの製品の長期使用に関する問い合わせが増加傾向にあったこと、また、SDGsや環境規制への関心が高まる中で、企業としても環境配慮への貢献を具体的に示したいという意向がありました。さらに、競争が激化する市場において、製品販売以外の新たな付加価値提供の必要性も感じていました。
こうした背景から、同社は従来の「販売して終わり」というビジネスモデルから、「製品を長く安心して使っていただくためのサービス」へと焦点を移し、修理・メンテナンスサービスの戦略的な強化と、それに伴うサーキュラーエコノミーの要素導入を決定しました。
具体的な取り組み内容:製品寿命延長に向けた実践
同社が行った具体的な取り組みは多岐にわたりますが、ここではその主要な内容をいくつかご紹介します。
1. 修理・メンテナンス体制の強化
まず、修理部門を独立させ、専任の技術者を増員しました。従来、製造部門の担当者が兼務することも多かった修理業務を専門化することで、対応スピードと品質の向上を図りました。また、定期的な技術研修プログラムを導入し、多様な製品の修理に対応できるスキルレベルの統一と向上に努めました。
2. 交換部品の管理と再生部品の活用
修理において発生する交換部品に着目しました。可能な限り使用済み部品を回収し、洗浄、点検、補修を行うことで「再生部品」として再利用する仕組みを構築しました。特に摩耗しやすい部品など、状態の良い使用済み部品を選別し、一定の品質基準を満たしたもののみを再生部品ストックとして管理しました。
これにより、新品部品の製造に必要な資源やエネルギーを削減できるだけでなく、再生部品を安価に提供することで修理コストを抑え、顧客の負担を軽減することにも繋がりました。当初、再生部品の品質管理に懸念がありましたが、厳格な検査プロセスを導入し、新品同等の保証期間を設けることで信頼性を確保しました。初年度は交換部品全体の約10%を再生部品で賄うことを目標としました。
3. 製品設計へのフィードバック
製造部門と修理部門が連携し、修理現場からの声を製品設計にフィードバックする仕組みを構築しました。具体的には、「分解しやすさ」「部品交換の容易さ」「耐久性の向上」といった観点から改善提案を行い、新製品開発や既存製品のマイナーチェンジに反映させました。これにより、将来的な修理コストの削減や製品寿命の更なる延長を目指しています。
4. 顧客への情報提供と啓発
単に修理サービスを強化するだけでなく、顧客に対して製品を長く使うことのメリットや、同社の修理・再生部品利用の取り組みについて積極的に情報提供を行いました。ウェブサイトでの情報公開、製品マニュアルへの追記、営業担当者からの直接説明などを通じて、顧客の意識改革を促しました。
導入プロセスにおける課題と解決策
これらの取り組みを進める中で、いくつかの課題に直面しました。
1. コストとリソースの確保
専任技術者の増員や研修、再生部品の品質検査設備への投資など、初期コストが発生しました。これに対し、中小企業向けの省エネ・環境関連補助金制度などを活用するとともに、修理部門の収益化目標を設定し、段階的な投資計画を立てることで対応しました。また、製造部門との連携を密にすることで、設備の共有や人員の柔軟な配置調整を行いました。
2. 技術・ノウハウの継承
長年製品に携わってきたベテラン技術者に修理ノウハウが蓄積されており、若手への技術継承が課題となりました。そこで、ベテラン技術者によるOJTを強化するとともに、修理手順を詳細に記録したマニュアルや動画を作成し、形式知化を進めました。
3. 再生部品の品質保証と顧客からの信頼獲得
再生部品に対する顧客の懸念を払拭するため、前述の通り厳格な検査基準を設け、保証期間を新品と同等に設定しました。また、実際に再生部品を利用した顧客の声を収集し、成功事例として紹介することで、信頼性の向上に努めました。
導入効果(成果)
これらの取り組みの結果、同社は以下のような成果を上げています。
- 収益性の向上: 修理・メンテナンスサービスからの売上が、サービス強化前の年間平均〇〇万円から〇年後には年間〇〇万円に増加し、新たな収益の柱として確立されました。また、再生部品の活用により部品コストを削減し、修理業務の利益率が向上しました。
- 廃棄物削減と資源循環: 使用済み部品の約△△%が再生部品として再利用されるようになり、廃棄物排出量の削減に貢献しました。
- 顧客満足度の向上: 迅速かつ高品質な修理サービス、安価な再生部品の提供により、顧客からの評価が高まり、リピート率や口コミによる新規顧客獲得にも繋がっています。
- 企業イメージの向上: 環境配慮への取り組みが取引先や地域社会からも評価され、企業ブランドイメージの向上に貢献しています。
- 製品開発への好影響: 修理現場からのフィードバックが製品設計に活かされ、よりメンテナンス性の高い製品開発に繋がっています。
今後の展望と中小製造業が学ぶべき点
同社は今後、さらに修理サービスのメニューを拡充したり、予防保全サービス(定期点検など)を強化したりすることで、製品のライフサイクル全体を通じた顧客との関係性を深めていくことを計画しています。また、将来的には、使用済み製品全体の回収・分解・再資源化まで視野に入れたビジネスモデルへの転換も検討しています。
この事例から、中小製造業がサーキュラーエコノミーを実践する上で学ぶべき点はいくつかあります。
- 既存事業との連携: 大規模な設備投資やビジネスモデルの抜本的な変更が難しくても、既存のアフターサービスや製品開発プロセスを見直すことから始めることができます。
- 顧客との関係性強化: 修理・メンテナンスサービスは、顧客との接点を増やし、信頼関係を築く絶好の機会です。顧客ニーズを直接把握し、サービス改善や製品開発に繋げることが重要です。
- 現場の知見の活用: 製品を最もよく知っているのは製造現場や修理現場の担当者です。彼らの持つ知見を、製品寿命延長や資源循環の取り組みに積極的に活用することが成功の鍵となります。
- 段階的なアプローチ: 一度に全てを変えようとするのではなく、まずは再生部品の活用など、取り組みやすい部分から着手し、成功体験を積み重ねながら徐々に拡大していくことが現実的です。
まとめ
製品の修理・メンテナンスサービス強化による製品寿命延長は、中小製造業にとってサーキュラーエコノミーを実践する有効な手段の一つです。これは単なる環境対策に留まらず、新たな収益機会の創出、コスト削減、顧客満足度向上、そして企業価値向上に繋がる戦略的な取り組みとなります。
製品ライフサイクル全体にわたって製品価値を維持・向上させる視点を持つことは、持続可能な経営を実現するために不可欠です。本事例が、サーキュラーエコノミー導入に関心をお持ちの中小製造業の皆様にとって、具体的な実践に向けた一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。