製造現場のゴム端材・不良品を価値ある資源へ:中小製造業の再生利用事例
はじめに:見過ごされがちなゴム・エラストマー端材の課題
ゴムやエラストマーは、自動車部品、産業機械、医療機器、日用品など、多岐にわたる製品に不可欠な素材です。これらの製造工程では、成形時のランナー、ゲート、バリ、あるいは品質基準を満たさなかった不良品など、避けられない形で端材やスクラップが発生します。
これらの端材や不良品は、多くの場合、産業廃棄物として処理されています。その処理コストは製造原価を圧迫する要因の一つであり、また資源の有効活用という観点からも課題となっています。特に、加硫ゴムのように一度硬化すると再溶解が難しい素材の場合、その再生利用は技術的なハードルが高いとされてきました。
しかし近年、再生技術の進化やサーキュラーエコノミーへの意識の高まりにより、中小製造業においてもこれらのゴム・エラストマー端材を価値ある資源として捉え、再生利用する取り組みが進められています。本稿では、中小製造業が実際に取り組んだ具体的な事例を通じて、ゴム・エラストマー端材・不良品の再生利用がどのように実現され、どのような成果をもたらしているのかをご紹介します。
具体的な取り組み内容:ゴム・エラストマー端材の再生利用
ゴム・エラストマー端材の再生利用にはいくつかの方法がありますが、中小製造業で比較的取り組みやすい代表的なアプローチを以下に示します。
1. 粉砕・マイクロパウダー化によるフィラーとしての再利用
最も基本的な方法の一つに、発生した端材を細かく粉砕し、新たなゴム材料に配合して利用する手法があります。特に熱可塑性エラストマー(TPE)のように加熱により軟化する素材は、比較的容易に再加工が可能です。
- 具体的なステップ:
- 製造工程で発生した端材・不良品を種類や色ごとに分別します。異物の混入を防ぐことが重要です。
- 分別した端材を破砕機や粉砕機で適切な粒度に加工します。製品によっては、さらに微細なマイクロパウダーにする必要があります。
- 得られた粉砕材(リグラインド材)を、新規の原料に一定比率で混合し、成形工程に投入します。
- 現場での工夫:
- 分別作業の徹底:現場作業員への教育と、分かりやすい分別コンテナの設置が不可欠です。
- 配合比率の検討:リグラインド材の混合比率によって製品の物性(強度、伸び、硬度など)が変化するため、事前に少量で試作・評価を行い、適切な配合比率を見極める必要があります。外部の試験機関の活用も有効です。
- 乾燥プロセスの確認:特に吸湿性の高い素材の場合、粉砕材の乾燥が不十分だと成形不良の原因となることがあります。
2. 加硫ゴムの脱硫・再生処理
一度加硫(架橋)されたゴムは、通常は熱を加えても軟化せず、リサイクルが困難でした。しかし、近年では脱硫処理という技術により、加硫結合を切断してゴムを再び軟化させ、新しいゴム材料として再生することが可能になっています。
- 具体的なステップ:
- 発生した加硫ゴムの端材・不良品(タイヤやホース、パッキンなど)を分別・粉砕します。
- 粉砕されたゴムを、外部の専門再生処理業者に委託します。業者によっては、独自の脱硫技術や再生プロセスを持っています。
- 再生処理されたゴム(再生ゴム)を、新たなゴム製品の原料として使用します。
- 現場での工夫:
- 業者選定:再生ゴムの品質は業者によって異なるため、複数の業者からサンプルを取り寄せ、自社の製品品質に適合するか評価することが重要です。
- コスト試算:委託費用と再生ゴムの購入費用、新規原料費との比較を行い、経済的なメリットがあるか事前に試算します。
3. 発生抑制と高付加価値化への取り組み
再生利用だけでなく、そもそも端材や不良品の発生を抑制するための製造工程の見直しや、再生材を用いた新製品開発による高付加価値化もサーキュラーエコノミーの重要な側面です。
- 具体的なステップ:
- 不良率の分析:不良品が発生しやすい工程や原因を詳細に分析し、改善活動を実施します(設備メンテナンス、金型精度向上、作業方法の見直しなど)。
- 製品設計へのフィードバック:端材が出にくい製品形状の検討や、再生材の利用を前提とした材料選定など、設計段階からリサイクル性を考慮します。
- アップサイクル:再生材を単に原料として再利用するだけでなく、元の製品とは異なる用途やより高い価値を持つ製品に生まれ変わらせる(例:舗装材、マット材、雑貨など)。
導入プロセスでの課題と解決策
ゴム・エラストマー端材の再生利用を導入するにあたり、中小製造業が直面しやすい課題と、その克服に向けたアプローチをご紹介します。
課題1:再生材の品質安定性
再生材は新規原料に比べて品質のばらつきが大きいことがあり、製品の物性に影響を与える懸念があります。
- 解決策:
- 少量での試作・評価を徹底する。
- 信頼できる再生処理業者を選定し、再生材の供給仕様を明確にする。
- 受け入れ時に品質検査(物性、異物混入など)を実施する体制を構築する。
- 新規原料との混合比率を慎重に調整し、安定した品質を確保できる範囲で使用する。
課題2:既存設備での使用可否
再生材、特に粉砕材や再生ゴムは、既存の混練機や成形機での加工性が新規原料と異なる場合があります。
- 解決策:
- メーカーや再生処理業者に相談し、自社の設備での加工実績や注意点を確認する。
- 実際の設備で小ロットのテスト生産を行い、問題がないか確認する。
- 必要に応じて、設備の条件設定(温度、圧力、時間など)を調整する。
課題3:現場の意識改革と分別徹底
再生利用は、現場での適切な分別や異物混入防止といった日々の活動にかかっています。作業員の意識改革が不可欠です。
- 解決策:
- サーキュラーエコノミー導入の目的(コスト削減、環境貢献など)を全従業員に共有し、意義を理解してもらう。
- 分別方法や異物混入の危険性について、具体的な手順を示したマニュアルを作成し、繰り返し研修を行う。
- 分別状況を定期的に確認し、フィードバックを行う。成功事例を共有し、モチベーションを高める工夫も有効です。
課題4:初期投資やランニングコスト
粉砕機などの設備導入や外部委託費用、品質管理体制の構築にはコストがかかります。
- 解決策:
- 自社の発生量や将来的な計画に基づき、最適な導入規模や方法(内製か外部委託か)を検討する。
- 補助金や助成金制度の活用可能性を調べる。
- 削減できる廃棄物処理費用や原料費を正確に試算し、投資回収期間(ROI)を把握する。
- 段階的な導入(小規模での試行から始める)により、リスクを分散する。
導入効果(成果)
中小製造業におけるゴム・エラストマー端材の再生利用導入は、以下のような成果をもたらす可能性があります。
定量的成果
- 廃棄物排出量の削減: 発生するゴム端材・不良品の〇〇%(例:30%〜70%など、取り組み規模や素材による)を再生利用に回すことで、産業廃棄物として処分する量が大幅に削減できます。
- 廃棄物処理コストの削減: 廃棄物排出量の削減に伴い、委託費用や運搬費用といった処理コストが削減されます。削減率は排出量削減率に比例することが多いです。
- 原料費の削減: 新規原料の一部を再生材に置き換えることで、原料購入費用を削減できます。再生材の価格は新規原料より安価な場合が多いです。
- ROIの目安: 取り組み規模や内容によりますが、設備投資を伴う場合でも、廃棄物処理費と原料費の削減効果により、数年程度(例:3年〜5年)で投資回収が可能となる事例も見られます。
定性的成果
- 環境負荷の低減: 資源の有効活用と廃棄物の削減は、企業の環境負荷低減に直接貢献し、社会的な責任(CSR)を果たすことにつながります。
- 企業イメージの向上: 環境問題への積極的な取り組みは、顧客や地域社会からの信頼獲得、企業イメージ向上に貢献します。特に環境意識の高い取引先との関係強化につながる可能性があります。
- 従業員の意識向上: 資源循環への貢献を実感することで、従業員の環境意識や業務へのモチベーション向上につながります。
- 新たなビジネス機会の創出: 再生材の安定供給や活用ノウハウの蓄積が、再生材を用いた新製品開発や新たな取引先開拓につながる可能性があります。
今後の展望と学ぶべき点
ゴム・エラストマー端材の再生利用は、単なる廃棄物対策から、コスト競争力強化や新たな事業機会創出へと進化する可能性を秘めています。
- 技術の進化: 脱硫技術や異物除去技術は日々進化しており、より高品質で多様な再生ゴムの利用が可能になることが期待されます。最新技術の情報収集を継続することが重要です。
- 製品設計への組み込み: 再生材の利用を前提とした設計(DfR: Design for Recycling/Remanufacturing)をさらに進めることで、より効率的かつ高品質な再生利用が可能になります。
- 業界内連携: 自社で完結できない工程(例:専門的な脱硫処理)は、外部の専門業者や他の企業との連携が不可欠です。業界団体などを通じた情報交換や協業も有効です。
まとめ:一歩踏み出す勇気と着実な実践
ゴム・エラストマー端材・不良品の再生利用は、素材や製品の特性上、検討すべき事項は多いですが、中小製造業においても着実に実践し、コスト削減、廃棄物削減、そして環境負荷低減といった明確な成果を上げることが十分に可能です。
重要なのは、まず自社のゴム・エラストマー端材の発生状況を正確に把握することから始め、どのような再生方法が適しているかを調査・検討することです。そして、少量での試行や外部専門家との連携を通じて、課題を一つずつ克服していく着実なアプローチが成功の鍵となります。
サーキュラーエコノミーへの貢献は、企業の持続可能性を高め、未来への投資となります。ぜひ、自社の製造現場におけるゴム・エラストマー端材の価値を見直し、新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。