梱包材から始める資源循環:中小製造業のコスト・廃棄物削減事例
サーキュラーエコノミー、すなわち循環型経済への移行は、持続可能な社会の実現に向けて世界的に重要な課題となっています。大企業の取り組みが注目されがちですが、中小製造業においても、その規模や特性を活かした実践的な取り組みが可能です。中でも、「梱包材」の見直しは、比較的導入のハードルが低く、コスト削減や廃棄物削減といった具体的な成果に繋がりやすいため、サーキュラーエコノミー導入の第一歩として有効なアプローチと言えます。
中小製造業における梱包材の課題
製造業において、梱包材は製品の保護や輸送に不可欠な要素ですが、同時に多くの課題を抱えています。
- コスト負担: 原材料費の高騰や多様な仕様への対応により、梱包材の購入コストが増加傾向にあります。
- 廃棄物処理: 使用済み梱包材の分別、保管、運搬、処理には、手間とコストがかかります。特に多種多様な材質の梱包材が発生する場合、適切な処理が難しくなります。
- 環境負荷: 梱包材の製造、輸送、廃棄は環境に負荷を与えます。特に使い捨てのプラスチックや複合素材の梱包材は、その影響が大きくなります。
- 保管スペース: 使用前の梱包材、使用済みの梱包材ともに保管スペースを圧迫し、製造現場の効率を低下させる要因となることがあります。
これらの課題は、そのまま製造コスト増や現場の非効率に繋がるため、製造部門の責任者にとって喫緊の課題と言えるでしょう。サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れることで、これらの課題を解決し、新たな価値を創造する道が開けます。
梱包材におけるサーキュラーエコノミーの具体的な取り組み事例
中小製造業が梱包材領域で実践できるサーキュラーエコノミーの取り組みは多岐にわたります。以下にいくつかの具体的な事例を紹介します。
1. サプライヤーとの連携による仕入れ時梱包材の削減・再利用
部品や原材料を仕入れる際に使用される梱包材に着目する事例です。
- 取り組み内容: サプライヤーと協議し、可能な限り段ボールや緩衝材の使用を削減します。特定の部品については、繰り返し使える通い箱や専用パレットを使用するシステムを構築します。使用済みの通い箱は、決められたルートでサプライヤーに返却し、再利用を促進します。
- 導入プロセスでの課題と解決策:
- 課題: サプライヤー側の協力体制構築、通い箱の管理・洗浄、返却コスト。
- 解決策: 長期的な取引関係に基づいた相互メリットの説明(サプライヤー側の梱包材コスト削減)、通い箱の仕様標準化、定期的な回収ルート設定、洗浄工程の内製化または外部委託の検討。
- 導入効果(成果): 仕入れ梱包材の購入費用と廃棄物処理費用が削減されます。例えば、特定のサプライヤーからの納品における段ボール使用量を年間30%削減できたという事例があります。また、開梱作業の効率化にも繋がります。
2. 工程内での通い箱・コンテナの活用拡大
自社工場内の工程間搬送や部品保管に、使い捨ての段ボール箱ではなく、耐久性のある通い箱やコンテナを導入する事例です。
- 取り組み内容: 部品の種類や大きさに合わせた標準的な通い箱を選定し、工程間の部品搬送や在庫管理に使用します。これにより、工程内で発生する段ボールごみやストレッチフィルムの使用量を大幅に削減します。必要に応じて、箱の中に仕切りや緩衝材を組み込むことで、製品へのダメージを防ぎつつ再利用性を高めます。
- 導入プロセスでの課題と解決策:
- 課題: 通い箱の初期購入費用、保管スペースの確保、種類が増えすぎることによる管理の複雑化。
- 解決策: 費用対効果(ランニングコスト削減額と初期費用の比較)を明確にした上での段階的導入、折りたたみ式コンテナの活用による保管スペース効率化、部品分類に応じた通い箱の標準化・種類削減。
- 導入効果(成果): 工程内での廃棄物発生量を大幅に削減し、廃棄物処理コストが低減します。物流効率が向上し、部品管理も容易になります。段ボールの発注・在庫管理の手間も削減されます。
3. 出荷時梱包材の見直しと代替素材への転換
完成品の出荷に使用する梱包材の設計や素材を変更する事例です。
- 取り組み内容: 製品の保護性能を維持しつつ、過剰包装を見直します。緩衝材にエアークッションではなく、再生紙やパルプモールドを使用したり、繰り返し使える布製の梱包材を顧客に貸し出す仕組みを検討したりします。可能な場合は、木箱を再利用可能な設計に変更したり、レンタルパレットシステムを活用したりします。
- 導入プロセスでの課題と解決策:
- 課題: 顧客の理解と協力、代替素材のコストや性能、既存の物流システムとの適合性、レンタル・回収システムの運用。
- 解決策: 顧客への丁寧な説明(環境配慮、開梱の容易さなど)、少量からのテスト導入、複数の代替素材を比較検討、地域内の他企業との連携による回収ルート共有の模索。
- 導入効果(成果): 梱包材コストの削減、顧客からの環境意識が高い企業としての評価向上、新しい素材への対応技術の蓄積。
導入における課題と克服のヒント
サーキュラーエコノミーを梱包材から導入する際、いくつかの課題に直面する可能性がありますが、それらを乗り越えるためのヒントがあります。
- 現場の抵抗: 新しいルールや手順への戸惑い、一時的な作業負担増に対する抵抗があるかもしれません。
- 克服: なぜこの取り組みが必要なのか(コスト削減、環境負荷低減、企業の将来のため)を丁寧に説明し、現場の意見を吸い上げながら改善を進めます。成功事例や削減できたコストを具体的に示し、取り組む意義を共有します。
- 関係者との調整: サプライヤーや顧客との連携が不可欠ですが、それぞれの事情があるため調整に時間がかかることがあります。
- 克服: 一方的な要求ではなく、双方にとってメリットのある提案を行います(例:梱包材コスト削減分の一部還元)。長期的な視点での関係構築を目指し、根気強く対話を重ねます。
- 初期投資: 通い箱やコンテナ、新しい梱包設備の導入には初期費用がかかります。
- 克服: 導入によるランニングコスト削減額を算出し、投資回収期間を明確にします。国の補助金や自治体の支援制度を積極的に活用できないか検討します。全てを一度に行わず、優先順位をつけて段階的に導入します。
- 効果測定の難しさ: 具体的な成果を数値で把握しにくいと感じることがあります。
- 克服: 取り組みを開始する前に、現状の梱包材コスト(購入費、処理費)や廃棄物排出量(重量、体積)を正確に把握します。取り組み開始後は定期的にデータを計測し、目標値に対する進捗を確認します。削減できたコストは金額換算して関係者と共有します。
まとめ
梱包材の見直しは、中小製造業にとってサーキュラーエコノミーを自社の製造現場に取り入れるための現実的で効果的な一歩となります。仕入れ、工程内、出荷というバリューチェーン全体で梱包材に潜むムダを見つけ出し、削減、再利用、代替素材への転換といった視点で改善を図ることで、コスト削減、廃棄物削減、環境負荷低減という複数のメリットを同時に享受できます。
これらの取り組みは、大規模な設備投資を伴わずとも、現場の創意工夫や関係者との連携によって実現可能です。まずは自社の梱包材の現状を把握することから始め、できるところから一歩ずつ実践してみてはいかがでしょうか。これにより、企業の持続可能性を高めると同時に、競争力強化にも繋がるはずです。