成形不良・端材からコスト削減へ:中小製造業のプラスチック循環利用事例
製造現場で発生するプラスチック廃棄物を価値ある資源に変える
中小製造業の皆様にとって、製造工程で発生する廃棄物の処理コスト増加は、利益を圧迫する大きな課題の一つかと存じます。特にプラスチックを扱う製造現場では、成形不良品、ランナー、抜きカスといった様々な形態のプラスチック廃棄物が発生します。これらは多くの場合、産業廃棄物として処理されており、その費用は年々増加傾向にあります。
一方で、サーキュラーエコノミーの考え方に基づき、これらのプラスチック廃棄物を単なるゴミではなく、「資源」として捉え直し、社内での再利用や外部への有価物としての売却に取り組む中小製造業が増えています。本稿では、中小製造業がどのようにプラスチック廃棄物の循環利用を導入し、コスト削減や環境負荷低減といった成果を上げているのか、具体的な事例を通してご紹介いたします。
事例紹介:製造工程内でのプラスチック再資源化
ここでは、ある樹脂成形を営む中小製造業の事例をご紹介します。この企業では、射出成形工程で発生するナイロンやポリプロピレンなどの成形不良品やランナーが、日々の廃棄物の大半を占めていました。これらの廃棄物は専門業者に引き取りを依頼していましたが、処理費用は増加の一途をたどり、また新規材料の価格変動リスクにも直面していました。
こうした状況に対し、同社が取り組んだのは、発生したプラスチック廃棄物の社内での再資源化です。
具体的な取り組み内容
- 廃棄物の発生源と種類の特定: まず、どの工程でどのような種類のプラスチック廃棄物がどのくらいの量発生しているのかを詳細に調査・分析しました。特に、異なる種類のプラスチックが混入しないよう、発生段階での分別ルールを確立しました。
- 小型粉砕機の導入: 成形不良品やランナーを粉砕するための小型粉砕機を導入しました。大型の設備は初期投資や設置場所の問題がありましたが、省スペースで比較的小規模な投資で導入可能な機種を選定しました。
- 粉砕材の品質管理と再利用: 粉砕されたプラスチックは、新規ペレットと一定の比率で混合し、再び成形材料として使用しました。異材混入や劣化による品質低下を防ぐため、混合比率の検討や、再利用材で成形した製品の物性試験を繰り返しました。また、粉砕材の色味によっては、再利用できる製品を限定するといった工夫も行いました。
- 従業員への教育とルールの徹底: 廃棄物の分別、粉砕機の安全な操作、再利用材の取り扱いに関する従業員への教育を徹底しました。現場の協力が不可欠であるため、この取り組みの目的やメリットを丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要でした。
導入プロセスでの課題と解決策
- 初期投資コスト: 粉砕機の導入には一定の費用がかかります。同社は、中小企業向けの省エネ・省資源設備導入に関する補助金情報を収集し、申請・活用することで初期負担を軽減しました。また、中古設備の検討やリースといった選択肢も有効です。
- 品質への懸念: 再利用材を使用することによる製品品質への影響が最大の懸念でした。この点については、まず品質要求の比較的緩やかな製品や、社内使用の備品などで試行を重ね、品質管理部門とも連携しながらデータに基づいた判断を行いました。材料メーカーや粉砕機メーカーからの技術的なアドバイスも参考にしました。
- 現場の抵抗: 新しい作業手順が増えることや、品質問題が発生した場合の責任に対する懸念から、現場で当初抵抗が見られました。会社側は、この取り組みがコスト削減に繋がり、結果として会社の安定経営や従業員の雇用を守ることに繋がる点を丁寧に説明しました。また、粉砕作業の自動化や省力化が可能な設備を選んだり、作業負担が増加しないよう工程を見直したりすることで、現場の理解を深めました。
導入効果(成果)
この取り組みの結果、同社では以下のような成果を得ることができました。
- 廃棄物処理コストの削減: 成形不良品やランナーとして排出されていたプラスチックの大半を社内で再利用できるようになったため、産業廃棄物として外部に委託する量が大幅に削減され、年間〇〇万円規模の処理コスト削減に繋がりました(具体的な金額は企業規模や発生量により異なります)。
- 材料購入費の削減: 新規のプラスチックペレットの使用量を削減できたため、材料購入費の圧縮に貢献しました。特に材料価格が高騰する局面において、コスト変動リスクを抑える緩衝材としての効果も発揮しました。
- 環境負荷の低減: 廃棄物の削減と新規材料の使用量削減は、CO2排出量の抑制といった環境負荷低減にも貢献します。これは企業の社会的責任(CSR)の観点からも重要であり、取引先からの評価向上にも繋がりました。
- 従業員の意識向上: 自身が発生させた廃棄物が「資源」として循環し、コスト削減に繋がる様子を目の当たりにすることで、従業員の環境意識やコスト意識が向上しました。
学ぶべき点と導入へのヒント
本事例から、中小製造業がプラスチック廃棄物の循環利用に取り組む上で、いくつかの重要なヒントが得られます。
- 自社で発生する廃棄物の種類と量を正確に把握すること: 何をどれだけリサイクルできるのか、実現可能性を判断する第一歩となります。
- 小規模から始めること: 高額な大規模設備を一度に導入するのではなく、まずは小型の粉砕機など、比較的小規模な設備から導入し、効果を確認しながら段階的に拡大していくアプローチも有効です。
- 外部の専門家や業者との連携: 再資源化の技術的な課題や、社外でのリサイクルルート(有価物として売却できるかなど)については、専門の業者やコンサルタントに相談することが早期実現への近道となります。
- 補助金・助成金情報の収集: 環境対策や設備投資に関する補助金・助成金は様々なものがあります。情報収集を怠らず、積極的に活用を検討してください。
- 現場とのコミュニケーション: 従業員の理解と協力なくして、現場での効果的な分別や新しいルールの運用は困難です。丁寧な説明と、取り組みのメリットを共有することが成功の鍵となります。
- 品質管理体制の再確認: 再利用材の使用は品質に影響を与える可能性があります。既存の品質管理体制を見直し、必要に応じて強化策を講じることが不可欠です。
まとめ
製造工程で発生するプラスチック廃棄物の再資源化は、中小製造業にとってコスト削減、廃棄物削減、環境負荷低減といった複数のメリットをもたらすサーキュラーエコノミーの実践的な一歩となります。初期投資や品質管理といった課題は存在しますが、補助金の活用、段階的な導入、外部連携、そして何より現場の従業員との丁寧なコミュニケーションによって、これらを克服し、具体的な成果を上げている事例は少なくありません。
自社の製造現場で発生するプラスチック廃棄物を改めて見つめ直し、「資源」として有効活用できる可能性を探ることは、持続可能な経営体制を構築する上で、今や避けては通れない重要な取り組みと言えるでしょう。本事例が、皆様の工場におけるサーキュラーエコノミー導入検討の一助となれば幸いです。