製造プロセス最適化で歩留まり改善:中小製造業の廃棄物削減とコスト削減事例
中小製造業の皆様にとって、製造コストの削減と廃棄物排出量の削減は常に重要な課題です。特に、製造過程で発生する不良品は、材料費、加工費、再加工費、廃棄費用など、様々なコストを発生させる要因となります。この不良品の発生率を示す「歩留まり率」を改善することは、直接的なコスト削減だけでなく、資源の有効活用というサーキュラーエコノミーの考え方にも合致する重要な取り組みです。
本記事では、中小製造業における製造プロセスの最適化を通じた歩留まり改善が、いかに廃棄物削減とコスト削減に貢献するのかを、具体的な取り組み事例を交えてご紹介します。
製造現場における歩留まり改善の重要性
歩留まりとは、投入した材料や資源に対して、最終的に製品として完成した良品の割合を示す指標です。歩留まりが低いということは、それだけ不良品が多く発生していることを意味し、以下の問題を引き起こします。
- コスト増: 材料費の無駄、加工に要した人件費や設備の稼働費の無駄、再加工や修正にかかる追加コスト、不良品の廃棄にかかるコストなど。
- 納期遅延: 不良品の発生により、生産計画が狂い、納期遅延のリスクが高まります。
- 資源の無駄: 不良品は使用されるはずだった資源を消費し、廃棄されることで環境負荷となります。
- 現場の負担: 不良品の発生は、検査、選別、再加工、原因究明など、現場作業員の負担を増やします。
歩留まりを改善することは、これらの問題を解決し、製造効率、経済性、環境負荷低減を同時に実現する、サーキュラーエコノミーの実践に繋がる取り組みと言えます。特に中小製造業においては、限られた資源を最大限に活用するために、歩留まり改善は喫緊の課題となることが多いです。
具体的な歩留まり改善の取り組み事例
ここでは、ある中小部品製造業A社が行った歩留まり改善の取り組み事例をご紹介します。A社では、特定の加工工程で発生する寸法不良や傷つき不良が、製品全体の歩留まりを低下させる大きな要因となっていました。
導入背景
A社では、不良品の発生による材料費のロス、再加工のための残業時間の増加、不良品の廃棄費用が経営を圧迫していました。また、環境意識の高まりから、廃棄物排出量の削減も求められていました。漠然とした対策ではなく、具体的な原因特定と恒久的な対策が必要であると認識しました。
具体的な取り組み内容
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不良原因の徹底的な分析:
- まず、不良品が発生している工程を特定し、どのような種類の不良が、どのくらいの頻度で発生しているかをデータ収集しました。(例: 日ごとの不良個数、不良の種類別集計など)
- 次に、発生した不良品を詳細に観察し、現場作業員へのヒアリングや過去の作業記録を参照することで、考えられる原因をリストアップしました。(例: 材料ロットによるばらつき、設備の微調整のずれ、治工具の摩耗、作業員の習熟度、作業環境の変化など)
- 特に多かった「傷つき不良」については、製品の搬送方法、保管方法、治工具への脱着方法などをビデオ撮影して分析し、特定の治工具と搬送時に発生しやすいことが判明しました。
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プロセスの改善策実施:
- 分析で特定された原因に基づき、具体的な改善策を立案・実施しました。
- 治工具の改良: 傷つき不良の原因となっていた治工具の材質を変更し、製品と接触する部分にクッション性のある素材を追加しました。また、定期的な治工具の点検・交換基準を明確にしました。
- 作業標準の見直しと教育: 傷つきや寸法不良を防ぐための、製品の取り扱いや設備の調整方法に関する新たな作業標準を作成し、全ての作業員に対してOJT(On-the-Job Training)を実施しました。熟練作業員が若手作業員を指導する体制を強化しました。
- 設備の点検頻度増加: 寸法ずれの原因となる設備の微調整のずれに対し、始業前点検チェックシートに特定の項目を追加し、点検頻度を増加させました。
- データ収集ツールの導入: 不良発生時の状況(使用材料ロット、担当作業員、設備番号、気温など)を記録するための簡単なチェックシートを導入しました。これにより、後の原因分析が容易になりました。
導入プロセスでの課題と解決策
- 課題1: 現場作業員の抵抗: 新しい作業標準やチェックシート導入に対し、「やり方を変えたくない」「手間が増える」といった抵抗がありました。
- 解決策: 改善の目的(不良が減れば残業が減る、廃棄物が減り会社に貢献できる)を丁寧に説明し、改善活動に現場作業員を巻き込みました。特に、アイデアを出した作業員の意見を採用し、成功体験を共有することで、主体的な参加を促しました。
- 課題2: 原因特定のためのデータ分析能力の不足: 収集したデータをどのように分析すれば良いか、最初は分かりませんでした。
- 解決策: 全てのデータを詳細に分析するのではなく、発生頻度の高い不良に絞り込み、まずは基本的なグラフ(パレート図など)を作成して可視化することから始めました。これにより、対策の優先順位をつけやすくなりました。必要に応じて、外部の専門家やコンサルタントに簡単な相談をすることも視野に入れました。(この事例では、まずは自社内の簡易分析で成果を出しました)
導入効果(成果)
これらの取り組みの結果、A社では顕著な成果が得られました。
- 不良率の低減: 対象工程の不良率が、取り組み前の平均5%から、実施後には1%未満まで低下しました。
- 廃棄物排出量の削減: 不良品の発生が約80%削減されたことで、それに伴う廃棄物量が大幅に減少しました。(具体的には、年間約5トンの産業廃棄物削減に貢献しました)
- コスト削減: 不良品削減による材料費ロス、再加工費、廃棄費用の合計で、年間数百万円規模のコスト削減を実現しました。
- 生産効率の向上: 不良による手戻りが減り、スムーズな生産が可能となり、納期遅延のリスクが低減しました。
- 現場の意識変化: 従業員が自ら問題を発見し、改善策を考える習慣が根付き始めました。
今後の展望/学ぶべき点
A社は、この成功を基に、他の工程にも同様の歩留まり改善活動を展開する計画です。また、得られた知見を基に、設計段階での不良発生リスク低減(デザインレビュー)にも取り組むことで、より上流からのサーキュラーエコノミーを推進していくことを目指しています。
この事例から学ぶべき点は、歩留まり改善は単なる品質管理活動ではなく、廃棄物削減とコスト削減を同時に実現するサーキュラーエコノミーの重要な一歩であるということです。そして、大掛かりな設備投資を伴わなくとも、現場での地道な原因分析とプロセス改善、そして従業員の巻き込みによって、大きな成果が得られる可能性があることです。
まとめ
中小製造業における歩留まり改善は、不良品という「無駄」を削減し、資源効率を高めるための実践的なサーキュラーエコノミーの取り組みです。徹底的な原因分析、現場に即した具体的な改善策の実施、そして従業員を巻き込むプロセスを通じて、廃棄物削減とコスト削減という両輪での成果が期待できます。
まずは、自社の不良発生状況を把握し、最も影響の大きい工程から小さく改善活動を始めてみてはいかがでしょうか。地道な努力の積み重ねが、持続可能なものづくりと企業経営に繋がる第一歩となるはずです。