製造工程のフィルター・吸着剤を資源へ:中小製造業のコスト削減・環境負荷低減事例
製造工程のフィルター・吸着剤に潜む課題
中小製造業の皆様におかれましても、製造工程においては様々なフィルターや吸着剤が使用されていることと存じます。これらは製品品質の維持、設備の保護、作業環境の改善などに不可欠な役割を果たしています。しかしながら、その多くは一度使用されると交換が必要となり、定期的な購入コストと、使用済み品の廃棄コストが発生します。特に、特殊な物質を吸着したフィルターや吸着剤は、適切な処理が求められるため、処理コストが高騰する傾向にあります。
こうしたフィルターや吸着剤の交換サイクルが短い場合や、使用量が多い場合は、年間を通じた費用が無視できない金額になることも珍しくありません。また、廃棄物として処理される使用済みフィルターや吸着剤は、環境負荷の観点からも削減が望ましい課題と言えます。
サーキュラーエコノミーの考え方は、この「使用したら廃棄」というリニアな経済モデルから脱却し、資源を循環させることで、経済的なメリットと環境負荷低減の両立を目指すものです。中小製造業においても、このフィルターや吸着剤の分野でサーキュラーエコノミーを導入する事例が増えています。
具体的な取り組み事例:フィルター・吸着剤の再生利用
ある金属加工を主業とする中小製造業では、切削油のろ過や洗浄水の浄化に多くのフィルターや吸着剤を使用していました。これまでは、定期的に交換・廃棄するというサイクルでしたが、コストと廃棄量の増加が課題となっていました。そこで、サーキュラーエコノミーの考え方に基づき、以下の取り組みを検討・実施しました。
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再生可能なフィルター・吸着剤への切り替え検討:
- 従来の使い捨てタイプから、洗浄や加熱処理などにより再生可能な素材・構造を持つフィルターや吸着剤がないかを調査しました。特に、比較的高価な精密フィルターや、油分を吸着する吸着剤などを対象としました。
- 複数のサプライヤーからサンプルを取り寄せ、現場での性能テストを実施。再生処理後の性能低下度合いや、再生にかかるコストと新規購入コストの比較検討を行いました。
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専門業者による洗浄・再生サービスの活用:
- 自社での再生処理が技術的・コスト的に難しいと判断した場合、専門の再生サービスを提供する外部業者との連携を検討しました。
- 使用済みフィルター・吸着剤の回収、洗浄・再生、そして再生品の納品までを一貫して行うサービスを利用することで、自社での手間と設備投資を抑えることが可能になります。業者選定にあたっては、再生技術の確実性、環境規制への対応状況、コスト、そして回収・納品のスムーズさを重点的に評価しました。
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使用状況の最適化と長寿命化:
- フィルターや吸着剤の交換基準を「定期的」から「性能の劣化度合いに基づく」へと見直しました。圧力損失計や濁度センサーなどを活用し、実際の使用状況に基づいた交換計画を立てることで、無駄な早期交換を削減しました。
- 前処理として粗いフィルターを導入したり、油水分離を徹底したりすることで、後段の精密フィルターや吸着剤への負荷を軽減し、寿命を延ばす工夫も行いました。
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再生が困難な場合の資源回収:
- 再生が難しくなったフィルターや吸着剤についても、単に廃棄するのではなく、そこに含まれる可能性のある有価物(例: 吸着された貴金属など)の回収を専門業者に委託するルートを検討しました。
導入プロセスでの課題と克服
このような取り組みを進める上で、いくつかの課題に直面しました。
- 初期コストと効果の見極め: 再生可能なフィルターや再生サービスは、初期費用やサービス利用料が使い捨てよりも高くなる場合があります。これに対し、年間を通じた購入費削減、廃棄物処理費削減、そして資源循環による企業イメージ向上といった長期的なメリットを、具体的な数値で算出し、経営層を含む関係者間の合意形成を図ることが重要でした。
- 再生品の性能への懸念: 再生フィルターのろ過精度や、再生吸着剤の吸着能力が、新品と同等であるかという懸念がありました。これは、事前の綿密な性能評価テスト、そして信頼できる再生技術を持つ業者との連携により克服しました。業者選定時には、再生処理の基準や品質管理体制をしっかりと確認することが不可欠です。
- 現場での運用変更への抵抗: 使用済みのフィルターや吸着剤の分別、一時保管場所の確保、再生業者への引き渡し手続きなど、現場の作業フローに変更が生じます。これに対しては、サーキュラーエコノミー導入の目的(コスト削減、環境貢献)を丁寧に説明し、現場担当者の理解と協力を得ることが重要です。また、新しい運用が現場の負担にならないよう、作業手順の簡素化や明確化を心がけました。
導入による効果
これらの取り組みの結果、この中小製造業では以下のような効果が得られました。
- フィルター・吸着剤の購入コスト約30%削減/年: 再生品の利用や長寿命化により、新規購入頻度を大幅に減らすことができました。
- 廃棄物排出量約40%削減/年: 使用済みフィルター・吸着剤の再生利用・資源回収により、最終処分量が減少しました。
- 廃棄物処理コスト約25%削減/年: 廃棄量の減少に伴い、処理委託費用が削減されました。
- 環境負荷低減: 資源の有効活用と廃棄物削減により、企業の環境パフォーマンスが向上しました。これは、取引先からの評価向上にも繋がっています。
- 現場の意識改革: 資源を「捨てるもの」ではなく「循環させるもの」として捉える意識が現場担当者の間で芽生え始めました。
これらの定量的な成果に加え、持続可能な製造プロセスへの転換は、企業のレジリエンス(強靭さ)を高めることにも繋がります。資源価格の変動リスク低減や、サプライチェーンにおける環境配慮への要請といった外部環境の変化に対応しやすくなるためです。
今後の展望と学ぶべき点
この事例から学ぶべき点は、以下の通りです。
- 小さく始めて大きく育てる: 最初から全てのフィルター・吸着剤を対象とするのではなく、コスト削減効果の見込みが高い品目や、再生ルートが確立しやすい品目から着手することで、リスクを抑えながら導入を進めることができます。
- サプライヤーとの連携強化: フィルターや吸着剤のサプライヤー、および再生サービスの提供業者との密な連携は成功の鍵となります。共に最適な循環スキームを構築するパートナーシップが重要です。
- 現場の巻き込み: 現場での運用がスムーズに行われるためには、計画段階から現場担当者の意見を吸い上げ、共に課題解決に取り組む姿勢が不可欠です。
- 継続的な効果測定と改善: 導入後も定期的にコスト削減効果や廃棄物削減量を測定し、当初の計画と比較することで、更なる改善点を見つけ出すことができます。
まとめ
製造工程で使用されるフィルターや吸着剤の再生・リサイクルは、中小製造業においてサーキュラーエコノミーを導入するための有効な一歩となり得ます。単なる環境対策に留まらず、具体的なコスト削減効果や、廃棄物処理にかかる手間とコストの削減に直接的に貢献します。
導入にあたっては、対象とするフィルター・吸着剤の選定、信頼できる再生技術を持つパートナーの確保、そして現場での運用変更への丁寧な対応が成功の鍵となります。これらのステップを踏むことで、資源を有効活用し、持続可能な経営基盤を強化することが可能になります。この事例が、皆様のサーキュラーエコノミー導入検討の一助となれば幸いです。