使用済み機械・装置部品の回収・分解・再利用:中小製造業のサーキュラーエコノミー実践
はじめに
製造業において、製品を生産し、使用され、最終的に廃棄されるという一方通行の経済モデルは、資源の枯渇、環境負荷の増大、そしてコスト上昇という課題に直面しています。このような背景から、製品や資源の価値を可能な限り長く保ち、廃棄物の発生を抑制するサーキュラーエコノミー(循環経済)への関心が高まっています。
特に中小製造業においては、新規資源の調達コスト削減、廃棄物処理費の低減、新たな収益源の確保といった経営的なメリットに加え、環境規制への対応や企業イメージ向上といった観点からも、サーキュラーエコノミーへの取り組みは重要性を増しています。
本稿では、中小製造業が使用済みとなった自社製の機械・装置部品を回収し、分解、選別、そして再利用・再資源化に取り組む具体的な事例とその実践的なポイントをご紹介します。これは、製品のライフサイクル後端におけるサーキュラーエコノミーの一つの形であり、製造現場での新たな挑戦となり得ます。
使用済み部品回収・再利用への取り組み背景
多くの機械・装置部品は、製品の寿命やメンテナンスサイクルに伴い交換され、使用済みとなります。これらの部品の多くは、品質が劣化しているか寿命を迎えているため新規部品と交換されますが、中にはまだ再利用可能な状態の部品や、貴重な素材が含まれている場合があります。これらを単に廃棄物として処理することは、資源の浪費であり、処理コストも発生します。
ある中小機械部品メーカーでは、顧客から交換された使用済み部品が産業廃棄物として処理されている状況を課題として認識していました。新規部品の製造コスト高騰に加え、廃棄物処理費も増加傾向にありました。そこで、使用済み部品を回収し、再利用や再資源化を図ることで、これらのコスト削減と環境負荷低減を目指すサーキュラーエコノミーの取り組みを開始しました。
具体的な取り組み内容:回収から再資源化まで
この中小企業が行った具体的な取り組みは以下のステップで構成されています。
1. 対象部品の選定と回収スキーム構築
まず、自社製品の中でも、比較的高価な部品、希少な素材を含む部品、あるいは比較的容易に分解・評価できる部品を、使用済み部品回収の対象として選定しました。同時に、顧客に使用済み部品の返却を促すためのインセンティブ(例: 新規購入時の割引、無償での引き取りなど)を設けるとともに、回収専用の物流ルートや提携業者との連携を構築しました。初期段階では、特定の主要顧客から協力を仰ぎ、小規模での回収から開始しました。
2. 現場での分解・選別プロセス
回収された使用済み部品は、専門の作業場に集められ、分解作業が行われます。分解には、製品構造を熟知したベテラン作業員が担当するか、分解しやすい設計が施された部品から優先的に取り扱います。分解された部品は、素材別(金属、プラスチック、ゴムなど)や部品の種類別に細かく選別されます。この際、異物の混入を防ぐための注意が必要です。
3. 品質評価と再利用可否の判断
選別された部品のうち、再利用の可能性のある部品は、目視検査、寸法検査、非破壊検査(例: 磁粉探傷検査、超音波探傷検査など)といった専門的な品質評価を受けます。ここでは、劣化度合い、摩耗、亀裂の有無などが厳密にチェックされます。再利用可能と判断された部品は、必要に応じて洗浄や軽微な補修が施されます。
4. 再利用部品の管理と活用
再利用可能と判断された部品は、新品部品とは別に専用の棚や倉庫で管理されます。在庫管理システムに登録し、状態や履歴(どの製品から回収されたかなど)を記録します。これらの部品は、修理用部品として提供されたり、リマニュファクチャリング(再製造)工程で活用されたりします。
5. 材料リサイクルと適切な処理
品質評価の結果、再利用が困難と判断された部品や、分解・選別された素材は、金属スクラップ業者やプラスチックリサイクル業者といった専門の再資源化事業者へ引き渡されます。適切な分別を行うことで、より高価な有価物として売却できる場合もあります。有害物質を含む部品や、リサイクルが難しい素材は、関連法規に基づき適正に処理されます。
導入プロセスにおける課題と解決策
この取り組みを進める上で、いくつかの課題に直面しました。
- 顧客からの回収率向上: 顧客にとって使用済み部品の返却は手間となるため、回収率をいかに上げるかが課題でした。これに対し、返却の手間を最小限にするための物流サービスの提供や、金銭的インセンティブの付与、さらには企業としての環境配慮への取り組みを顧客に丁寧に説明し、協力を依頼することで解決を図りました。
- 分解・選別・評価の手間と技術: 部品の分解には熟練した技術が必要な場合があり、また再利用可否の判断には専門知識と設備が必要です。当初は手作業中心でしたが、頻繁に分解する部品については専用の治工具を開発したり、一部の検査工程には外部の専門機関と連携したりすることで、効率化と精度向上を進めました。
- 再利用部品の品質保証: 回収・再利用部品に対する顧客の信頼を得るためには、新品と同等あるいはそれに近い品質を保証する必要があります。徹底した検査基準の策定と運用、必要に応じた性能試験の実施、そして品質に自信があるものだけを再利用部品として流通させるという方針を貫きました。保証期間を新品より短く設定するなど、リスクを管理する方法も検討しました。
- 初期投資とコストバランス: 回収スキーム構築、分解・検査設備導入、管理システムの整備には一定の初期投資が必要です。また、回収・分解・処理の運用コストが、新規部品購入費削減や売却益を上回るリスクも考慮する必要がありました。段階的な導入、既存設備の活用、外部リソースの有効活用などにより、コストを抑えながら進めました。費用対効果を常に評価し、取り組み範囲を調整しました。
- 現場作業員の意識改革と負担増: 新たな回収・分解・選別作業は、現場作業員にとって負担増となる可能性があります。取り組みの意義を丁寧に説明し、環境への貢献を実感してもらうこと、作業マニュアルを整備し効率化を図ること、そしてスキルアップの機会を提供することで、現場の協力を得ることができました。
導入効果と成果
このサーキュラーエコノミーへの取り組みは、以下のような成果をもたらしました。
- コスト削減: 使用済み部品からの再利用部品活用により、新品部品の購入量を削減でき、部品調達コストが約10%削減されました。また、適切に分別された有価物の売却や廃棄物量の減少により、廃棄物処理コストも年間で数十万円削減することができました。
- 廃棄物排出量削減: 使用済み製品・部品の再資源化・再利用率が向上し、最終的な埋め立て・焼却処分される廃棄物量が取り組み開始前に比べ約30%削減されました。
- 新たな収益源の可能性: 回収した部品を活用したリマニュファクチャリング製品や、特定の再利用部品の販売による新たな収益の道筋が見えてきました。
- 企業イメージ向上: 環境負荷低減への積極的な取り組みは、顧客や地域社会からの評価を高め、企業の持続可能性を示す強力なメッセージとなりました。
- 現場の意識変化: 資源を「捨てるもの」ではなく「活かすもの」として捉える意識が現場に根付き、他の工程での資源有効活用や廃棄物削減のアイデアも生まれやすくなりました。
今後の展望と学ぶべき点
この事例から学ぶべき点は、サーキュラーエコノミーへの取り組みは、単なる環境対策ではなく、コスト削減や新たなビジネス機会創出につながる経営戦略であるということです。
この中小企業では、今後さらに回収対象部品を拡大し、より高度な分解・選別技術や非破壊検査技術の導入を検討しています。また、他社と連携し、部品や素材の共同回収・共同リサイクルシステムを構築することも視野に入れています。
中小製造業がサーキュラーエコノミーに取り組む上では、自社の製品や工程を詳細に分析し、どこに資源循環の可能性があるかを見極めることが第一歩となります。そして、スモールスタートで始め、課題に一つずつ向き合い、現場の協力を得ながら着実に進めていくことが成功の鍵となります。
まとめ
使用済み製品・部品の回収、分解、再利用・再資源化は、中小製造業にとって難易度の高い取り組みのように見えるかもしれません。しかし、適切な計画と段階的な実行、そして現場の創意工夫によって、コスト削減、廃棄物削減といった明確な成果を上げることが可能です。さらに、これは新たな顧客価値やビジネスモデルの創出にも繋がり得る、将来に向けた重要な投資と言えます。
貴社でも、使用済み製品や部品に眠る潜在的な価値に目を向け、サーキュラーエコノミーへの第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。具体的な導入方法や、貴社の状況に合わせた取り組みについて、検討を進めるための一助となれば幸いです。